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『私』は、彼に同情などはしません。 |
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力を貸すことも、敵対することもありません。 |
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なぜなら、彼は次の『私』であり、私と同じ存在だからです。 |
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けれど、私はひとつだけ彼に救いを与えました。 |
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それが、エクリスをあいする異国の王女との出逢いです。 |
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語り:中惠光城 |
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エクリスから遠く離れた天空の地セレスターラに生まれた彼女は、 |
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不治の病に冒されてなお、生きることに前向きな少女でした。 |
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いつか迎えに来る『エクリス』を、楽園へ誘う天使のように思いながら、 |
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限られた時間を精一杯生きていました。 |
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思えば、すべてが正反対で、性別も違えば身分も違う、 |
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到底わかり合えばはずのない二人でした。 |
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だからこそでしょうか。 |
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彼は不思議と、彼女には本心を見せることがありました。 |
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ここでは何も偽る必要はありません。 |
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縛られることを嫌う彼も、未来のない相手となら、どんな約束でも交わすことができたのです。 |
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不確かで曖昧な関係は、逆に彼の心に強い安定感を与えていました。 |
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一方、彼女は彼の孤独に気づいていたようでした。 |
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その理由を知った時から、彼を救いたい言うようになりました。 |
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「砂漠のように乾いた彼の心に、優しい雨を降らせたい。 |
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夜ばかりがつづく彼の世界に、月のような明かりを灯したい。 |
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私に残された時間は残り僅かだけれど……。 |
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自分の運命を変える時間には足りなくても、彼の未来を変えることならできるかもしれないもの」 |
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私が「たとえば?」と尋ねると、彼女はこう答えました。 |
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「たとえば、彼をほんの少し笑わせることならできる。怒らせたり、泣かせたり……。 |
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感情を動かすことならできる。そんな小さな積み重ねでも、彼の明日を少しだけ塗替えて、 |
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いつか彼の運命をも逆転させる大きな力になるかもしれませんから」 |
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ーーやがて、彼女の病は悪化していきました。 |
| [03:37.29] |
頻繫に苦しむようになった彼女を楽にする方法はたった一つ。 |
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命を奪うことでした。彼が忌まわしく思っていた『エクリス』だけが彼女を救済する。 |
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エクリスは、彼女にとっては救世主であり、女神そのものだったのです。 |
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しかし、彼は真実から目を背け、 |
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彼女を匿いながら、呪いを解く方法を考えました。病を治す薬や魔術を探しました。 |
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彼女を失う日が、せめて一日でも遠くなるように。 |
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彼女への執着は、彼を少しずつ現実世界へと引き戻していたのです。 |
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私が彼に与えたはずの救いは、いつしか大きな試練となってしまいました。 |
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世界と運命を受け入れて、エクリスをも愛そうとする彼女と、 |
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何も受け入れられない彼の間には、大きな溝がありました。 |
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二人の別れは、すぐそこに迫っていたのに。 |